セミナー講師の仕事

2019年1月に外国人雇用に関する専門書を2冊同時出版したことで、官公庁や大学、専門学校、企業などから、セミナー講師の依頼をいただく機会が増えました。

最初のころのセミナーでは、人前で話すことに慣れていなかったため、必要以上に緊張してしまい、うまく話せなくて落ち込むこともありました。

話し方はぎこちなく、活舌は悪く、声が張れない。だから、途中で、「もう少し声を張ってください」「マイクの音量を大きくしてください」といった参加者からの注文が入りました。講師に慣れていない私は、ますます緊張してしまい、どんどん活舌が悪くなるという悪循環でした。

そのセミナーの後、どうすればよいのか自分なりに考え、講師をしている先輩にアドバイスをもらい、関連書籍を読みあさり、できることを少しずつ行っていった結果、最近では、「同じテーマで当社でも講師をしてほしい」といったリピーターのご依頼につながることも増えてきました。

もちろん、講師業が本業ではないので、まだまだ課題はありますが、これまでいろいろ試行錯誤しながら改善していったことをまとめたいと思います。

講師依頼、講師打診時に確認すること 

まず、その依頼が確定依頼なのか、それとも他にも講師候補がいるのかを確認しましょう。確定依頼だと思ってその日時をあけておいたら、数週間後に他の講師に決まったっと連絡がある場合もあります。特に、まだ実績のないうちは、講師をお願いしようか未決定の段階で、面接のような形で打合せが行われることがあります。私の場合、官公庁からの依頼で講師をしたときに、「講師候補として上司に推薦しているので、2週間ほど日程を開けておいてほしい」と言われたことが何回かありました。

その場合、依頼になったとしても講師料はかなり安いことが多いです。最初のうちはそれでも受けたほうがよいですが、ある程度実績を重ねたら、面接のための打合せは断ってもよいかもしれません。その代わり、講師プロフィール、今までの講師実績一覧、著書一覧などをメールなどで送っておくと、後日、やっぱりお願いしますという形で依頼があることが多いです。特に著書がある場合、主催者側の担当者が依頼しやすいようです。

それから、講演日時、講師料、事前打合せの有無と回数、配布資料の分量などを確認していきます。意外と時間をとられてしまうのが事前打合せです。来所での打合せならまだよいのですが、主催者側に訪問しての打合せとなると、半日潰れてしまいます。また、過去に開催した会の資料などを見せてもらい、どの程度の資料を準備すべきなのか、知っておいたほうがよいでしょう。場合によっては、パワーポイントで最低100ページ以上用意してくださいと言われることもあるからです。

準備段階でできること

講師依頼が確定したら、資料の準備を進めていきます。たいていの場合、パワーポイントで資料を作成します。この時、作成の途中で、主催者に、配布資料、投影資料をチェックしてもらうとよいです。そして、フィードバックをもらいましょう。せっかく時間をかけて作成した資料でも、かなりダメ出しが出ることがあります。最初のうちは、かなり落ち込みますが、良い講演、セミナーにするためには絶対にやったほうがよいです。自分では気づかないことをたくさん教えてもらえます。しかも、無料で。プロのコンサルタントや先輩講師にチェックしてもらう場合、何らかのお礼をしなければいけませんが、主催者に見てもらうのに、お金はかかりません。

話すネタの探し方

情報には、1次情報、2次情報、3次情報があります。1次情報とは、自分が体験したこと。2次情報とは、体験した人から聞いたこと。3次情報とは、インターネットや書籍で書かれていることです。3次情報ばかりのセミナーはつまらないです。ネットや本を読んでいるほうがましです。

ですから、できるだけ1次情報の割合を高くしましょう。ただ、どうしても1次情報が少ししかないなら、2次情報を増やすようにしましょう。実は、私も講師仲間から、私の門分野に関してよく質問を受けます。一般的な質問ではなく、現場の実情や泥臭い話を聞かれます。料金の相場、本音の部分はどうなのかとか。そういう情報は、なかなかネットや書籍には載りませんし、載ったとしても情報が古かったり、まちがっていたりします。それよりも現役の実務家から、生きた最新の情報を仕入れたほうがよいです。講師を何度かやっていると、普段講師をしているという人が参加してくれることがよくあります。そういう人と名刺交換しておき、お互いの専門分野を聞いておくと、ネタに困ったとき、役立ちます。

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当日

当日は、最低でも1時間前までに会場入りすることをお勧めします。1時間あれば、その会場に少し慣れることができます。会場の広さ、マイクの音の通り具合、ホワイトボードの見え方などを確認しましょう。

そして、早く来られる参加者もおられます。早く来られた方とは名刺交換しましょう。名刺交換を断られることはまずありません。名刺を持参しておられない場合、こちらの名刺をお渡しするだけでも構いません。名刺を受け取ってくれた方は、あなたのことを礼儀正しい講師だな、と思い、好印象を抱くはずです。そのようにして、講演が始まる前に、ちょっとした味方を少しでも増やしておきましょう。

講演の最初、導入部分

講演は最初の5分が肝心です。最初の5分、上手に話せたら、あとは流れでうまくいきます。 

まず、数あるセミナーの中から、あなたが講師をするセミナーに、わざわざ足を運んでもらったことに対するお礼を言います。「本日は、数あるセミナーの中から、本セミナーに参加いただき、ありがとうございます。」といった具合です。あるいは、「貴重な時間をいただきましたので、有益な情報を話していきたいと思います」という感じて軽く決意表明するのもよいと思います。

自分の口でそういうことで、参加者に対して、感謝の気持ちをもつようになり、自然と役立つ話をしようという気持ちが改めて高まってきます。

そして、いきなり本題に入るのではなく、セミナー全体の流れ、幾つかのポイントを話していきます。たとえば、「本日のセミナーでは、3つの大きなテーマでお話をしていきます。事例を交えながら、できるだけ分かりやすく話していきたいと思います。」といった感じですね。

参加者は、最初の5分くらいで、講師の実力、セミナーが役立つかどうかを無意識に見極めます。なので、最初の5分で、つかみの話をすると、そのあとが楽になります。私がよく話ているのは、数字を入れた話です。例えば、外国人雇用のセミナーの場合、「就労ビザの許可率は全国平均でどれくらいだと思いますか?」と聞いてみます。また、「●●市の外国人住民の割合はどれくらいだと思いますか?」といった質問をしたりすることもあります。●●市の部分は、そのセミナーを行う場所、あるいは参加者が住んでいる場所を使います。

こうした数字は、インターネットで検索すると、出てきます。官公庁や行政機関が公表しているデータも多数出てきます。こうした情報、一般の方は意外と知らないことが多いです。だからちょっと調べてセミナーの冒頭で発表するだけでも、「この講師、結構良い情報を持っている、役立つ内容を話してくれるかも」というふうに思ってもらえる可能性が高いです。

参加者を飽きさせないためにできること

人間の集中力は30分と言われていますが、これは能動的に動く場合の集中力です。他人の話をじっと聞くだけという場合の集中力は、8分だそうです。ですから、いくら内容が充実していても、ずっと聞きっぱなしだと、聞いている人は飽きてしまいます。ですから、8分に1回は変化を持たせるようにします。私が実践していることは下記です。

①○×クイズ

簡単な〇×クイズを10個くらい用意しておき、挙手で回答してもらいます。この時、問題を投影したほうがよい場合と、口頭だけで問題を読み上げたほうがよい場合があります。口頭で問題を読み上げる場合、なぜ口頭のほうがよいのかも説明しましょう。そうしないと、投影資料に書き忘れただけではないかと思われるときがあるからです。例えば、「問題を読んでしまうと、簡単すぎるので、あえて口頭で質問しますね」といった感じです。

この〇×クイズは、ほとんどの方が参加してくれます。逆にあまり参加者がいない場合は、それまでの話がつまらないということを意味します。話が充実した内容であれば、それに関連した〇×クイズなら参加してくれるはずです。参加者の反応、理解度を把握するためにも、ぜひ〇×クイズの導入をお勧めします。

②挙手をしてもらう

〇〇の方はおられますか?と質問して、挙手をしてもらいます。あるいは、3択で質問して、「1番だと思う方、挙手してください」といった感じです。挙手をすることで、聞いている人は、自分の体を動かすことができます。そして、ただ聞いているだけから、参加するという態勢になります。自ら参加したほうが、参加者の満足度は高まります。できるだけ、参加者を動かすようにしましょう。

③ワーク

簡単な小テストをする、シートに記入してもらうなど、いろいろありますが、私のお勧めは、まちがい探しです。特に実務セミナーの場合にお勧めです。例えば、簿記の基礎を教えるセミナーの場合、決算書類に幾つか間違いを仕込んでおき、それを探すワークです。みなさん、結構真剣に取り組んでくれます。コツとしては、簡単に見つかる間違いと、難しめの間違いを仕込んでおくことです。全部見つけられた方には、拍手をしてあげましょう。あるいは、講師著書などがあるなら、景品として差し上げてもよいですね。

④グループワーク

グループワークは、最初はなかなか盛り上がらないのですが、時間がたつと、結構盛り上がります。実際、グループワークをたくさんやったときのアンケートでは、満足度が高かったです。やっぱり、みんな自分が話したいんですね。 自分で話すことで、学んだ内容を整理できますし、他の人の視点から気づきもありますし、いいことだらけだと思います。ただ、ここで注意点です。グループ分けは、講師がやったほうがよいです。「近隣の方と適当にグループになってください」といっても、ほぼ必ずあぶれる人がいます。また、グループワークを想定していなかった参加者もいます。そういう参加者から、後で、クレームっぽいことを書かれたこともありました。ですから、講師がグループ分けをしましょう。そして、もしグループワークがあまり盛り上がっていないようなら、早めに切り上げ、単独型のワーク、〇×クイズに切り替えましょう。あるいは、グループワークで考えてもらうテーマを、各自考えてもらい、何人かに発表してもらうという形でもよいです。10名以上参加者がいれば、必ず、数人は発表してくれます。

⑤熱量を持って話す・笑顔で話す・楽しそうに話す

話し方については、いろんな意見があると思いますが、私がいろいろ試した結果、たんたんと話すよりも、熱量を持って話したほうが、参加者の満足度は高かったです。こちらが気持ちをこめて話すと、参加者もきちんと聞いてくれます。もしたんたんと話すとしても、声を張って一生懸命に話すようにしましょう。

それから、無表情で話すよりも、笑顔で話すほうが、参加者の満足度が高い傾向にあります。講師が笑顔で楽しそうに話すと、聞いているほうも、楽しい気持ちになってくるから不思議です。

セミナー終了後にすること

セミナーの翌日、できれば午前中に、主催者にお礼のメールを送っておきましょう。また、名刺交換した参加者にもお礼のメールを送ります。お礼のメールは、主催者から、あるいは参加者から送るものだと考えていては、講師として成長しないです。参加してくれたお礼をきちんと伝えることで、次の講師依頼につながることもあります。

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